たづねても たれかはとはむ 三輪の山 きりのまがきに すぎたてるかと
ゆふづくよ やどる山田の 露のうへに かりねあらそふ 稲妻のかげ
よしさらば 袖にもかげを やどしてむ 月待つ宵の やまのした露
真葛原 露にひかりを さしそへて たままくものは 秋の夜の月
かつらぎや 高間のみねに 雲はれて 明くる侘しき ありあけの月
ありあけの 秋ぞなごりは 大原や 月を小塩の 山の端の空
ともしせし はやましげやま しのびきて 秋にはたへぬ さを鹿のこゑ
秋風に うづらなく野の 夕まぐれ なきこころまで あはれをぞしる
夕暮は いづくをいかに ながめまし 野にも山にも 秋風ぞ吹く
岩代の 野辺のしたくさ 吹く風に むすぼほれたる 松虫のこゑ
なにとかく はらひもあへず むすぶらむ 袂は露の おきどころかは
よなよなは やどりなれにし 月影も 枯れゆく小野の 浅茅生の露
くれがたの 木の葉にまよふ 秋の雨の まど打つ音に 夜は更けにけり
秋ふかき 松にあらしの たつたやま よそのこずゑを まづ払ふらむ
深草や 秋さへこよひ いでていなば いとど寂しき 野とやなりなむ
秋山に しぐれは過ぎぬ 神無月 木の葉ぞ冬の はじめとはふる
ゆく秋の わかれしのべば あともなし ただ霜ふかき 浅茅生の原
暮れぬとも なほ秋風は おとづれよ 荻のうは葉の 枯れがれにだに
ゆきかへり これやしぐれの めぐる雲 またかきくらす 遠山の空
霜やこれ かはらぬいろを おきあかし 月に枯野の 秋のふるさと