和歌と俳句

藤原雅経

千五百番歌合百首

あはれとも いつかは人に いはれ野の いはれずかかる 袖の露かな

さきの世を おもふも憂しや ひとこころ つれなかれとは ちぎりしもせじ

おもひわび おつる涙の 玉ごとに 砕きはてても あるこころかな

やどるとて 月になみだを まかせても 朽ちなばいかに 袖のしがらみ

かへしても むなしき床に しぼるかな うらみはてつる 夜半のさごろも

おもひかね つれなきなかに まつことは くらせる宵の 夢のかよひぢ

山の端に 入るまで月を ながむとも 知らでや人の ありあけの空

ものおもふ こころひとつに 秋ふけて 人をも身をも くすのうら風

おもふことの のこらぬ秋の 夕べにも なほ忘らるる 身こそつらけれ

むすぶ手の しづくばかりを 袖にみて あかでも人に やまのゐの水

あづまやの のきのしのぶの すゑの露 いくあさおきの 袖したふらむ

やどれとや 苔のさむしろ うちはらひ 旅ゆく人を まつのした風

雲にふし あらしにやどる あしひきの 山のいくへの 夕暮の空ら

あととめて とまるかたなき うきねかな さこそ浮きたる 波路なりとも

風わたる 松のしたねの 笹まくら 夢路とだゆる 天の橋立

たまもしき そでしく磯の 松が根に あはれかくるも 沖つ白波

けふもまた 荻のうは葉を そらに見て 露ふりくらす 武蔵野の原

草の葉に しほれふしぬる 袖まくら 夢やはむすぶ 夜半の白露

のべの露 やまの雫と たち濡れて かごとがましき 旅衣かな

あはれとて しらぬ山路は おくりきと ひとにはつげよ ありあけの月