和歌と俳句

那須

秣負ふ人を枝折の夏野哉 芭蕉

野を横に馬牽みうけよほととぎす 芭蕉

下萌えもいまだ那須野の寒さかな 惟然

きりこめて那須野狩野の犬の声 暁台

鳴くや那須の裾山家もなし 子規

子規
雲の峰殺生石の上に立ちて那須野を越ゆる旅人もなし

子規
下つけの なすのの原の 草むらに 覚束なしや 撫子の花

子規
夏の日の旅行く人の影たえて那須野の原に夕立のふる


那須の野の萱原過ぎてたどりゆく山の檜の木にのなくかも

秋日和狂ふ那須山颪かな 碧梧桐

一部落那須野の菊の痩せにけり 碧梧桐

冬川や那須の高根のそがひ見ゆ 碧梧桐

晶子
那須の原紅葉の中の黄なる葉の大木に来て馬の息吐く

晶子
紅硝子張りたる馬車の上すぐる那須野の原の秋のむら雨

芋を作り煙草を作る那須野かな 虚子

冬枯れて那須野は雲の溜るところ 水巴

那須五峰冬日に黒さつらねけり 水巴

浴泉や青嵐して箒川 秋櫻子

茂吉
那須山の 底よりおこる 大き谿 いくつもありて 雲ぞうごける

茂吉
下野の 那須のこほりに むらがりて つつじ咲きにほふ 心かなしも

茂吉
あまのはらに けさふりさくる 那須山の 五つの山は 青みわたれり

茂吉
一谷を わたりてくれば 那須嶽は 大きくなりぬ 立つけむり見ゆ

日出でて那須野ケ原は霧の海 青邨

雲海の上に月あり盆の月 青邨

莨干す那須野ヶ原の一軒家 青邨

山百合の大いなる花軒の端に 青邨

進学峠越して那須野の夏休 草田男

実が二つ尚ほ双葉にて藪柑子 草田男

なきがらの那須野の小蛇樗の下 草田男

那須野の子裏見え著つつあり 草田男

那須の馬をあふぎし我を乗せ 青畝

また曲る那須のけむりや草摘める 青畝

片側に濃紅葉置きて火山晴 林火

鮎落ちてしまひたるらし瀬の荒び 悌二郎

那須の野の清水が出湯かとぞ寄る 爽雨

厩出しや吹つさらしの那須の原 青畝

霧はやく行きゆく那須のつつじかな 青畝

風なぶるつつじつつじや那須の原 青畝

殺生石

湯をむすぶ誓も同じ石清水 芭蕉

落ちくるやたかくの宿の郭公 芭蕉

石の香や夏草赤く露暑し 芭蕉

茂吉
那須嶽の 雨は晴れつつ 曇る日を 殺生石に 死ぬを見し

笹原に秋風吹いて過ぐるのみ 青邨

元日の殺生石のにほひかな 波郷