夾竹桃戦車は青き油こぼす
戦車の後炎天のマラソンひそと
毒消し飲むやわが詩多産の夏来る
炎天の野路や溜飲鳴りさがる
小向日葵わが広額に納まるらん
夏雲見るすべての家を背になして
夏袴兄の姿の甲斐なからん
夏健か上半真白の船聳ゆ
葉月汐海は千筋の紺に澄み
沖は夏雲クローバーに花咲く如く
港市は山へ夏灯撒き上げ楔形
妻恋ふや黍の戦ぎ葉双肩に
教へ児等いねたり稲妻瞼越し
品川の倦みたる海も颱風来
林檎の柄林檎にふかし仏燈下
なきがらの那須野の小蛇樗の下
那須野の子袷裏見え著つつあり
蟋蟀の音揺れて童女髪鋏まる
肩一つ高めて山の娘が泳ぐ
左右の嶺のわが真上鳴る峡の雷
蜩の声山林に奥まりつつ
信濃路は夕立のあとはたと暮るる
雲海の彼岸の富士や今日あけつつ
諸山は遠富士に添ひ朝焼くる