和歌と俳句

中村草田男

万緑

雲海に蒼荒太刀の峰のかず

日の霧の間に青空のいく柱

霧の崖書柵いく重に積みしごと

夏山に断崖自ら爪を立て

夏山のあまた山ひざ牛馬佇つ

巌頭の薊や海の雲丹のごと

天地蒼き固唾をのんで巌の鷹

雷雲の間に残光の空しばし

牛馬啼く山の闇あり灯蛾の宿

月代も飛ぶ稲妻も山亦山

かの鷹と牛馬が夜月の峰

秒盤の中まで夏の山月澄む

朝霧やまづ岩山の岩を仰ぐ

朝霧や牛馬は四肢の上に醒む

朝霧や首ふるごとく嘶えし声

夏芝に牛馬の朝いきあまた光る

影絵めく牛馬朝日を織る蜻蛉

露の岩に片肢掛けし馬の姿

ひたひ髪思ひ深げに露の馬

露の仔馬たてがみ豊か振り分けに

青栗の幹に頭を寄せ馬の陣

岩が寝し夏芝に寝て牛の陣

九十九路下る泣きむし仔牛爽かに

夏山の懸路あまたに牛さまざま

渓清水牛の銀鐶鼻ゆ垂れ