和歌と俳句

夏の山

夏山や神の心を人に見し 石鼎

激つ瀬にむかへられけり夏の山 草城

大文字夏山にしてよまれけり 風生

夏山の立ちはだかれる軒端かな 風生

夏山や常山木の揚羽鴉ほど 蛇笏

夏山の葛風たゆるときのあり 蛇笏

夏山を叩いてゐるは鳩なるか かな女

石炭を隠し茂りぬ夏の山 かな女

夏山の雪近みかも木がくれに 秋櫻子

夏山のトンネルからなんとながいながい汽車 山頭火

電線といつしよに夏山越えて来た 山頭火

夏山や二三枚の田を頂に 普羅

夏の山くだる薄暑の径急に 草城

夏山に雲居りやせし瀬のながる 秋櫻子

雲そこを飛ぶ夏山の茶店かな 虚子

萬尺の夏山にむかひ径つづけり 秋櫻子

夏山を統べて槍ヶ岳真青なり 秋櫻子

月ひかり天の夏山明けそむる 秋櫻子

夏山は明けつつ月は野を照らす 秋櫻子

夏山やよく雲かかりよく晴るる 虚子

野の風にあたりてゆれぬ夏の山 耕衣

夏山の彼方の温泉に子規は浴みし 虚子

夏山のトンネル出れば立石寺 虚子

夏山やトロに命を託しつつ 虚子

夏山に家たたまりて有馬かな 虚子

妙義嶺は肌も示さずいま夏山 草田男

夏山の谷をふさぎし寺の屋根 虚子

夏山のおつかぶさりて土産店 虚子

夏山に断崖自ら爪を立て 草田男

夏山のあまた山ひざ牛馬佇つ 草田男

夏山の懸路あまたに牛さまざま 草田男

夏山に友ありあへて匿れしと 友二

胸射貫かれ夏山にひと生きむとす 桃史

鎌倉や浅しと云ふも夏の山 尾崎迷堂

噴煙に己かくれて夏の山 花蓑

夏山や我が母を嗣ぐ妻の袖 耕衣

木を伐りしあと夏山の乱れかな 虚子

夏山の重畳たるに溶鉱炉 青邨

夏山に向ひて歩く庭の内 素十

夏山や鯖の海より色濃くて 普羅