左千夫
天地の哺育のままにあまえ咲くダリヤの花は幼なさびたり
晶子
もの書きぬうす手の玻璃に萎れたる黒きだりあをかたはらにして
晶子
そぞろなる夜の心にうかび来るだりあの花はわりなかりけれ
白秋
薄あかり紅きダリヤを襟にさし絹帽の老いかがみゆく
白秋
君と見て一期の別れする時もダリヤは紅しダリヤは紅し
利玄
汽車とまり汽車の出て行く停車場のダリヤの花の昼のくたびれ
利玄
ダリヤ咲くさけばさきたるしみしさに花の瞳の涙ぐみたる
牧水
わが薄き 呼吸も負債に おもはれて 朝は悲しや ダーリアの花
牧水
うつとりと ダリアの花の 咲きて居り、ひとのなやみを 知るや知らずや
牧水
肺もいま あはき労れに 蒼むめり ダリアの園の 夏の朝の日
牧水
とほり雨 過ぎてダリアの 園に照る 葉月の朝の 日のいろぞ憂き
牧水
夏深き 地のなやみか 誘惑か、朝日かなしも、ダーリアの咲く
茂吉
日を吸ひてくろぐろと咲くダアリヤはわが目のもとに散らざりしかも
茂吉
かなしさは日光のもとダアリヤの紅色ふかくくろぐろと咲く
茂吉
家鴨らに食み残されしダアリアは暴風の中に伏しにけるかも
晶子
いにしへのクレオパトラを飾りたる玉の色してめでたきダリヤ
龍之介
病間のダリアを見るや久米正雄
牧水
植ゑすてし庭のダリヤの伸びはせでくれなゐ深き花つけにけり
牧水
梅雨ふるや 瓶に挿せれば くれなゐの しみじみ深き ダアリヤの花
牧水
一重咲 ダリヤの花の くれなゐの 澄みぬるかなや 梅雨ばれの風に
晶子
ダリヤ咲く疑多くかげ多き心と云へるものの形に
赤彦
ただ一つのこるダリヤの花見ればくづるるに近し紅の色
牧水
あかつきを いまだともれる 電灯の 灯かげはうつる 庭のダリヤに
茂吉
あつぐるしき 日にこもりつつ 居たりけり 黒きダリアの 花も身に沁む
牧水
真盛りを 過ぐれば花の いたましく ダリヤをぞ切る この大輪を
大いなる緋ダリヤ草に逆しまな 石鼎
一輪の黄なるダリヤに心寄す 石鼎
ダリア燃え浅寝の眼にはゆらぐなり 悌二郎
うちあげしあはれ形代と黄ダリヤ 青邨
霊還る篁青くダリヤ緋に 楸邨
千万年後の恋人へダリヤ剪る 鷹女
なかんづく緋の天鵞絨のだりあかな 石鼎