和歌と俳句

加藤楸邨

ひたひたと犬が走れりほととぎす

霊還る篁青くダリヤ緋に

竹の奥なほ青竹の朝焼けて

表札のどしやぶりの雨ほととぎす

寂光の葎にかへる夏露一顆

霊還る雷雨の屋根の雀かな

や天に崖あるひくれどき

露うごく今朝隣より征きにけり

崖うつて秋風かへす音なりき

水のんでを知りけるひとりごと

征く顔に稲妻洩らす雲一朶

十六夜や妻への畳皎々と

鰯雲畳が遠くなりにけり

阿蘇や机に置けば雲うごく

迎へ火や海のあなたの幾柱

迎へ火のそこらにひとつ露こぼれ

天の川垂れたるあたり戦ふか

青霧や近江の畦の明けきたる

静なる午前を了へぬ桐一葉

棉の実の一畝のみの明るさよ

青竹の俄に近く秋の風

まつすぐに松の空なる秋の雨

爽かに一鳥飛んで普茶料理

ややながき手紙や崖をくだる

菊よりも月光遠きかと思ふ

牛の舌まれに歯をもれ大野分