和歌と俳句

加藤楸邨

物の葉にいのちをはりし蜻蛉かな

鴨鳴いて月さしそめし障子かな

枸杞青む日に日に利根のみなとかな

利根の駅待てば暮れゆく落穂かな

行々子青葭剣のごとくなり

天の川冴えて莠のたけにけり

蜩に鳴かれてをりぬ萱の原

末枯れに乗りて小さき吾子菩薩

新茶淹れ父はおはしきその遠さ

のひま黒部黒薙相搏てる

峡の子の栗鼠を飼ひつつ夏休み

わらべらに罵られつつ晩稲刈

灯の下のいとどとあそぶ読み疲れ

めつむれば木曽路の時雨ゆくごとし

川の水浮葉を載せて田に入りぬ

壁の影我と籾摺りつつ更けぬ

笹鳴に姉より長き睫かな

母を恋ふ子に夕焼の峡の木木

柳散る昔啄木のまた我が径

曼珠沙華泣き出でし子を負ひすかし

知らぬ顔ふりかへり笑ふ曼珠沙華

汽車とまり大いなる虫の闇とまる

天の川泣寝の吾子と旅いそぐ

飛鳥川黒牛の貌稲架を出づ

礎石みな踏めば秋風の音こもる