和歌と俳句

加藤楸邨

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

朝朝の萩より言葉はじまりき

夏痩やあをあをとして竹の肌

十六夜や幾度妻をあざむきし

や杉の左右の蝉しぐれ

朝日出づ芋の露とび土は受け

車座にわれら藷くふわかれかな

朴は実に人は出でたつ秩父かな

鮎落ちて昨日の淵となりにけり

秩父路や天につらなる蕎麦の花

天の川ねむらんとして美しき

とこしへに天の川あり起ちたまへ

紫蘇の香の径をまがりぬ天の川

兜虫よこぎりゐたる踊の座

身に沁みて礁を越ゆる夜の潮

深秋の芒にはしる波の翳

焚火の秀なびくは午後の那珂湊

渡る遠き波へと暮れいそぐ

毛糸編はじまり妻の黙はじまる

冬霧の奥は見えきて竹の青

午過ぎて初霰せり爆音下

笹鳴のたえだえにわが月日かな

冬松の根よりかなしきときありき

ひとり打ちし夕映独楽のむかしかな

雪の日の透きとほるものを見んとせり

笹鳴や逢はでかへりし声は誰