和歌と俳句

加藤楸邨

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ゆく雁や二本の軌道あひわかれ

雲白き神田に雁のわかれかな

笹鳴の思ひ出さねば鳴かぬなり

食ひ惜しむ貧厨の薯めぶくなり

をだまきの花もしじまのひとつにて

朴の花雲にしめりて服重たし

梅雨の中小瑠璃ひとつをききさぐる

馬鈴薯の花に曇りし二三日

雲の峯夢にもわきてかぎりなし

馬鈴薯の花より深く暮れにけり

梅雨雲の動きゐるときあるごとし

四五歩して紫蘇の香ならずやと思ふ

紫蘇の香にをりをり触れて黙りをり

手を振りて雲の峯へと遠ざかる

かたはらに土屋文明の鬚の

汗拭くや茂吉の大人にはげまされ

腕くみて夏の北斗の下にあり

大旱やおのれとからむ南瓜蔓

睡蓮やまづ暮のいろ石にあり

天暮れてこぼるるものに花石榴

とはにあれ柘榴の花もほほゑみも

かぎりなき灯蛾のかなたの滋賀の湖

紫蘇青き日本にのこす幾日かな

夜光虫いきづく光ふたところ

夜光虫よりもはるかに思ひ出す