ゆく雁や二本の軌道あひわかれ
雲白き神田に雁のわかれかな
笹鳴の思ひ出さねば鳴かぬなり
食ひ惜しむ貧厨の薯めぶくなり
をだまきの花もしじまのひとつにて
朴の花雲にしめりて服重たし
梅雨の中小瑠璃ひとつをききさぐる
馬鈴薯の花に曇りし二三日
雲の峯夢にもわきてかぎりなし
馬鈴薯の花より深く暮れにけり
梅雨雲の動きゐるときあるごとし
四五歩して紫蘇の香ならずやと思ふ
紫蘇の香にをりをり触れて黙りをり
手を振りて雲の峯へと遠ざかる
かたはらに土屋文明の鬚の汗
汗拭くや茂吉の大人にはげまされ
腕くみて夏の北斗の下にあり
大旱やおのれとからむ南瓜蔓
睡蓮やまづ暮のいろ石にあり
天暮れてこぼるるものに花石榴
とはにあれ柘榴の花もほほゑみも
紫蘇青き日本にのこす幾日かな
夜光虫いきづく光ふたところ
夜光虫よりもはるかに思ひ出す