つぶやきかあらずしたたる雪解水
暗き火の奥も火が見ゆ天の川
蟋蟀にかへり良寛づかれかな
喉の奥は女の暗か野分して
冬萌や石中の声千余年
年越すとここまで生きて蜘蛛ひとつ
わが夜明滴るごとし年越すと
元日のわが素手よ今年また頼む
元日の素足は遠きものを感ず
めつむるまで初日見ざらんわが臍よ
今日だけは初日を浴びよ足の裏
元日の袖にひかりぬ肘ゑくぼ
空襲下火となりし独楽忘れえず
薔薇に影妻と知世子は別ものか
ねこじやらしふところにある未来かな
牡丹雪海に消えてはとどろくも
寒の石いつさい黙して死ねといふ
朧夜の我を出でゆく何ならむ
青あらし生あるものは皆揉まれ
叱らるる細目あけをり合歓の花
くくと啼く鵜を人間の手が掴み
つやつやと鵜の背鮎の背さびしけれ
火の目して 鵜は首綱の二十年
老いて鵜は滴るもののなかりけり
嶺に忘れし一つ葉はもう帰り来ず