和歌と俳句

加藤楸邨

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放生津波のほむらの青すいと

母に似し顔の中なるきりぎりす

曼珠沙華曼珠沙華とはなりきれず

秋の蛇踏むやおどろく日永岳

虫送り終りうつうつ蝗ども

青すいとすがりありあり遊女の名

けぶらしめ消えしめ今日の曼珠沙華

一つづつ仏頭撫でてねこじやらし

花火師の旅してゐたり曼珠沙華

高黍に顔さらしたるお修羅さま

ふるしぐれお修羅あそびのわらしたち

紅葉燃え何か告げたきお修羅さま

しぐるると座敷ワラシを見たかりき

末枯にこらさこらさと神迎へ

踊り足早池峯霧の渦まけり

鬼剣舞阿吽時雨るる夜のくだち

鬼の手振はだあすこだあだあ時雨つかむ

柿の朱にもう言はぬ口置きにけり

柿を過ぎゆく縷のごときもの亡波郷

秋の暮波郷燃ゆる火腹にひびく

灯の寒きこのしら骨が波郷かな

人の死に追はれ追はれて秋の暮

君居らぬ闇小国川吹雪きをり

葱の香のまつすぐにきて立ちにけり