初鶏も石中の火を見しならむ
てのひらが年立つものの初めかな
すさまじきわが呼び初めにやさしけれ
妻手術木瓜・椿・火のごときもの
来む世には河童おぼろ夜の髪となれ
壺の口遠し帰雁の下にして
生あればかなしき糞す恋の猫
わが持たぬ曲線ばかり桃の花
子を奪られ鳴きながら猫肥りゆく
ひとが来て蝶去る我の無言界
遠雷や内へ内へと薔薇の色
歯に咬んで薔薇のはなびらうまからず
生れきて蟻なりければ蟻の列
てのひらの蟻に重みのあるごとし
薔薇はなれ一二歩にして悪の相
霧笛鳴り真赤な蟹は食はれゆく
真青な笹の葉見えて雨施餓鬼
猫と蟇青がみなりの下に逢ふ
青葡萄川ことごとく甲斐を出づ
男体はいま颱風の真青栗
いなびかり女体に声が充満す
土を出て恋の無念を曼珠沙華
秋風やねむれば燃ゆる自我業苦
鈴虫の食はれ残りが髭振れる
月に立ち女は骨が怒りをり