和歌と俳句

加藤楸邨

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初鶏も石中の火を見しならむ

てのひらが年立つものの初めかな

すさまじきわが呼び初めにやさしけれ

妻手術木瓜・椿・火のごときもの

来む世には河童おぼろ夜の髪となれ

壺の口遠し帰雁の下にして

生あればかなしき糞す恋の猫

わが持たぬ曲線ばかり桃の花

子を奪られ鳴きながら猫肥りゆく

ひとが来て去る我の無言界

遠雷や内へ内へと薔薇の色

歯に咬んで薔薇のはなびらうまからず

生れきて蟻なりければの列

てのひらのに重みのあるごとし

薔薇はなれ一二歩にして悪の相

霧笛鳴り真赤な蟹は食はれゆく

真青な笹の葉見えて雨施餓鬼

猫と蟇青がみなりの下に逢ふ

青葡萄川ことごとく甲斐を出づ

男体はいま颱風の真青栗

いなびかり女体に声が充満す

土を出て恋の無念を曼珠沙華

秋風やねむれば燃ゆる自我業苦

鈴虫の食はれ残りが髭振れる

月に立ち女は骨が怒りをり