和歌と俳句

加藤楸邨

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笹鳴や浄土追はれし磨崖仏

豆打餅食ふべいぐべと市帰り

豆打餅餓鬼わらしこの顔ふたつ

初刷の言葉とすれば二三言

笑ひ初半ばにてふと真顔なす

猿曳を見しは葛飾波郷ゐて

満山二十八谷吹雪く松の風

石中に伏目千年凍て仏

忿りきれず諦めきれず冷え仏

蜂くれば人の顔して磨崖仏

満山の仏とあそぶ夏蜜柑

かうと鳴き棄て石臼に寒鴉

修正会の鬼が焼きたる焼仏

風花や何しぶしぶと磨崖仏

寒中や織りこぼしたる藺ひとすぢ

花過ぎの夜更けて落花一二片

暮おそき昨日の前も昨日にて

留守の戸はくちなしの香がかはりかな

恥かしき顔半分は合歓の花

青真菰夜の柳川水うごき

朴の花びら踏んでおどろくそびらかな

青嵐遠くよりもの見えきたる

えつ見たき潮だぶだぶと筑後川

一つ見れば梅雨の石ころ神籠石

生や死や有や無やが充満す