和歌と俳句

初蝉やそぞろにくもり曇る日の 石鼎

一とこに本蝉なくに窓二つ 石鼎

洋館の二階の窓や枝に蝉 石鼎

心頭の蝉みんみんといさぎよし 茅舎

みんみんや鼻のつまりし涙声 茅舎

暁のその始りの蝉一つ 汀女

蝉の羽瑞瑞し魄のなきいまも 誓子

捕はれし蝉の鳴声突然に 立子

微笑みて征けり蝉鳴きしんに鳴く 楸邨

蝉しぐれ凡愚の歌よ徹らざれ 友二

鼻唄の律呂初蝉泣き狂ふ 友二

寝冴ゆると双耳の蝉や鳴きしきる 友二

蝉時雨夫のしづかな眸にひたる 信子

夫とゐるやすけさ蝉が昏れてゆく 信子

母とあるや蝉の立ちゆき来鳴くなど 

深山の月夜にあへる蝉しぐれ 蛇笏

鳴く蝉は海へ落つる日独り負ひ 草田男

蝉声を驟雨の樹樹になほ絶たず 誓子

驟雨来ぬ蝉は両眼濡らし啼く 誓子

二時灼けて父も蝉きく獄に棲み 不死男

逆なりに蝉匐ひくだる正午かな 楸邨

蝉しぐれ中に鳴きやむひとつかな 楸邨

片影の甍冷たく蝉越ゆる 欣一

幾本の蝉の大樹や早雲寺 虚子

蝉の陣真平らなる水面奔る 草田男

蝉終に疾風の中に声を絶つ 誓子

横向きに鳴く蝉見えて喧し 誓子

幾千の蝉なき汝今は亡し 楸邨

雨後の村蝉音は山へしりぞきぬ 林火

蚊の声の夕焼は濃くなりまさり 林火

蝉しぐれ森深く海入りこめる 林火

蝉の音と赤きインクを終日に 林火

忍べとのらす御声のくらし蝉しぐれ 亞浪

山頂の丘や上なき蝉の声 草田男

蝉しぐれ子も誕生日なりしかな