和歌と俳句

山口誓子

七曜

初夏の日に手足ひからせ生きむとす

けふの静臥初夏の繭雲閉ぢわたる

巌にゐて蠅も鉄色よき五月

この稚子に五月の清暑復来る

梅雨のあと蟻すれちがひなほ湿地

指さきにさし来る夏の暾を拝む

樹の幹に隠れて既に暾は暑き

夏雲の下なる墓域生きて購ふ

半天に雲たのみなき峰つくる

夏川の淵の砂浜あはれなる

嘴のべて鵜か炎天もまたさびし

夕焼は陸にも海にも照りあまる

畳ゆく見て息をしづかにす

のこゑ樹林をながく涵しける

蝉声を驟雨の樹樹になほ絶たず

子のいのち眇たり空蝉葉にすがる

日常の眼鏡の反射緑なす

海兵生薔薇より前に服白し

あぢさゐの黄なるを嘆くにもあらず

緑蔭の新聞ながく顔隠す

著莪の弁著き一日を回想す

日月を行かしめ著莪は常蔭なる

われら栖む家か向日葵夜に立てり

ちちろ鳴き厨妻吾に何つくる

露更けし星座ぎつしり死すべからず

貝殻の露団団と浪の際

波打に砂丘に貝殻露凝らす