夏氷挽ききりし音地にのこる
夏氷自転車濡すとめどなし
ひとり膝を抱けば秋風また秋風
稲妻のはなやぐ露天子を寝かす
いなびかり嬰児は肩に眠りよる
秋風に嬰児ひとりうらがへる
峡わたる日が真上より菊に差す
菊に対ひ身に高山を繞らする
ひかる軌道草蒸す軌道秋の暮
一本の鉄路蟋蟀なきわかる
鉄路よりしづけきものなし虫がなき
赤土の崖にこぼれず虫はなきしきる
夜はさらに蟋蟀の溝黒くなる
蟋蟀が深き地中を覗き込む
きりぎりすながき白昼啼き翳る
きりぎりす光は陰と地をわかつ
山中の鉄路を霧の越えわたる
午も過ぎ霧の日輪かたちなし
赫と日が霧の内界照らしだす
日の光露玲瓏のかげもさす
山中に送りし露の日も積る
秋山に秋山の影倒れ凭る
愉しまず晩秋黒き富士立つを
蟋蟀の一途なるこゑ水にしむ
山の上の平を夜毎月照らす