機関車の寒暮炎えつつ湖わたる
こがらしと馳せつつ犬は顧る
冬浪とともに碧海湖に入る
涯なく冬浜おのれ堪へざらむ
夜に着きし海辺ぞ凍てし鶴のこゑ
爛爛たる星座凍鶴並び立つ
凍鶴は夜天に堪へず啼くなめり
冬浜にひとりのわが身紛れたる
冬浜に鳥翼ながくとどまらず
冬浜にこころ虔しみ日を見送る
こころ吾とあらず毛糸の編目を読む
畝火山艮の樹間火を焚けり
新年の病臥の幾日既に過ぎ
梅挿せば濡れし枝枝さし交す
活けし梅一枝強く壁に触る
麗しき春の七曜またはじまる
蝌蚪曇りなほ三月の日のごとき
一隅の蝌蚪の偏りひたすらなる
水増えてゆきかふ蝌蚪の高くなりぬ
むきむきにゆく蝌蚪を見て術もなき
月日過ぐ蕨も長けしこと思へば
鴉何処までも晩春の茜の中
晩春の午後の静臥の雲多き
静臥の儘春日落ちてただ茜
春の暮鴉は両翼垂らしとぶ
前髪に朝日赫奕入学す
虻翔けて静臥の宙を切りまくる
虻抱きてぢぢとなき落つ地の上
春の蚊の燈のほとり過ぎ顧みず