和歌と俳句

山口誓子

七曜

榊棄つ葬のあとの秋の波

玉串の漂ひゆかず秋の浜

陸の上に遅るこゑごゑわたる

つきぬけて天上の紺曼珠沙華

秋の浜見かへるたびに犬距る

庇より墜ちし蟷螂斧すすめ

渡り鳥夕日に翳をわきばさみ

啼けり樹下の黒土掘り起す

鼻腔よりしづかなる息鵙の昼

かりがねのこゑするたびに吾を隔つ

ゆく雁の眼に見えずしてとどまらず

ゆく雁のこゑあとさきに落ちて過ぐ

雁のこゑすべて月下を過ぎ終る

秋没日松は花よりくれなゐに

つきぬけて天上の紺曼珠沙華

静臥の身寒き分秒過ぎゆけり

海の村寒き金星一顆のみ

わが島根寒月照りて浸し得ず

こがらしと東西に顕つ宵の星

雪の上天明到ることはやき

敷きて海に近寄ることもなし

夜の雪遮二無二海の中へ降る

海人たちをしぬぎし焚火すぐ衰ふ

鵯海をわたらむとして木に射たる