和歌と俳句

蟷螂 かまきり

かまきりや野分さかふてとりどりに 来山

蟷螂や五分の魂見よ見よと 一茶

蟷螂の斧ほのぼのと三日の月 子規

かまきりのゆらゆら上る芒哉 子規

蟷螂は叶はぬ戀の狂亂か 子規

稲妻やかまきり何をとらんとす 子規

石塔に誰が遺恨のかまきりぞ 子規

螳螂も刀豆の實にくみつくか 子規

草むらや蟷螂蝶を捕へたり 虚子

蟷螂や扇をもつて打擲す 虚子

蟷螂や我行く道に現はるゝ 碧梧桐

蟷螂のほむらさめたる芙蓉かな 碧梧桐

蟷螂や鉢の木古き南天に 碧梧桐

晶子
わが取れる 紗の燈籠に 草いろの 袖をひろげて 来る蟷螂

蟷螂に負け吼立つ小犬かな 鬼城

白秋
月の前に 鎌ふり立つる 蟷螂は 青萱の葉の 光る葉にゐる

秋天をとんで光りし蟷螂かな 石鼎

秋風に蟷螂羽をひろげけり 石鼎

蝗くはへて獣の如き蟷螂かな 泊雲

蟷螂の横に倒れて死にゐたり 石鼎

蟷螂や喰みこぼしたる蝶の翅 泊雲

蟷螂の吹かれしがみや萩の上 青畝

かまきりばたりと落ちて斧を忘れず 放哉

茂吉
寺なかの ともりし白き 電燈に 蟷螂とべり 羽をひろげて

草穂つかんで立つ蟷螂や佐久平 水巴

蟷螂やゆらぎながらも萩の上 素十

蟷螂にひゞける鐘は東大寺 草城

宿までかまきりついてきたか 山頭火

蟷螂の面ぬぐひては進むかな 烏頭子

蟷螂の鋏ゆるめず蜂を食む 誓子

蜂舐ぶる舌やすめずに蟷螂 誓子

蟷螂の生れて既に永とゐる 誓子

蟷螂の斧をねぶりぬ生れてすぐ 誓子

蟷螂の樹を攀ぢのぼる生れてすぐ 誓子

日がのぼり露のかまきり躍り出づ 青邨

蟷螂や虻の碧眼かい抱き 茅舎

蟷螂に蟷螂のごとくわが手を立つ 楸邨

蟷螂も燃ゆるカンナの中に棲めり 鷹女

蟷螂の貧しき朝餉吾が朝餉 鷹女

金剛の露に蟷螂斧上ぐる 茅舎

蟷螂の弓杖つくもはずむまま 青畝

庇より墜ちし蟷螂斧すすめ 誓子

かまきりの玻璃戸をのぼり雷うかがふ 亜浪

蟷螂を青一色に見失ふ 誓子

蟷螂は馬車に逃げられし馭者のさま 草田男

蟷螂の緑眼にいまわれ映る 誓子

蟷螂のきらりきらりと顔を向け 誓子

蟷螂の斧くちびるにあてて舐む 誓子

蟷螂のおのが枯色飛びて知る 多佳子

朝顔をつかみ蟷螂雨うかがふ 亜浪

たそがれの蟷螂母を威し去る 鷹女

樹を攀ぢし蟷螂翅でとび降りる 誓子

螳螂にかゞめば膝の夕陽かな 信子

蟷螂の青き目のうちより視らる 節子

石の上に踊るかまきり風もなし 三鬼

蟷螂の浮足立てて皮聖書 静塔

雌が雄食うかまきりの影と形 三鬼

蟷螂の斧ふりあげし哀しさよ 万太郎

惨として飛翔かたむく蟷螂かな 蛇笏

蟷螂のずしんと降りし砂の庭 誓子

死火山麓かまきり顔をねじむけて 三鬼

蟷螂に有無を云はさぬ頭を押さへ 誓子

蟷螂はなびける萩の落し物 青畝