焼跡へ梅雨晴の空ひた押しに
山頂の丘や上なき蝉の声
蛍火や白き夜道も行路難
みちのくの蚯蚓短し山坂勝ち
烈日の光と涙降りそそぐ
切株に据し蘖に涙濺ぐ
空手に拭ふ涙三日や暑気下し
戦争終りただ雷鳴の日なりけり
陽が欲しや戦後まどかな月浴びつつ
夜長し四十路かすかなすはりだこ
秋風とジープの走り無心なれど
蟷螂は馬車に逃げられし馭者のさま
戦後の子紅葉のうらに赤々と
ただ忍べ燃ゆる紅葉の夕冷えは
馬息吹く無為の蹄の冷ゆるらめ
酷寒かなし母よと呼ばぬまでにして
脱ぎし足袋吹飛びぬかろんぜられぬ
雪白の手袋の手よ善き事為せ
宮城はうつつ受影は永久の冬の水
焼跡に遺る三和土や手毬つく
負うて行く銀河や左右へ翼なす
寒風に未来を問ふな臍に聞け
電熱器オレンヂ色の火針にも映ゆ