和歌と俳句

中村草田男

来し方行方

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高値の靴かにかく買へり祭笛

子を抱くや林檎と乳房相抗ふ

四十路さながら雲多き午後曼珠沙華

亡き友肩に手をのするごと秋日ぬくし

友に死なれ宗匠じみて秋風

はたはたや退路絶たれて道初まる

末枯や御空は雲の意図に満つ

鰯雲個々一切事地上にあり

鳴くまでは鳴かぬ冬鵙市騒ぐ

散紅葉人なつかしく重なりて

比喩もろとも信仰消えて枯野の日

笹鳴や職場に知己ある謂なし

寒き母持物すべて胸に抱き

冬木立汝来しかと雫打つ

国は予後雪月明の捨て車輪

帰郷者の如く橋辺に日なたぼこ

わが背丈以上は空や初雲雀

遠蛙独りて生くる齢なる

ラグビーのせめぐ遠影ただ戦後

雲雀の音曇天掻き分け掻き分けて

る日々不安を孤独と詐称して

黴の宿よぢれて燃ゆる生命の日

恩友に忠友たり得よ魂祭

新盆や絵巻は雲の帯長く