悔いの声烏迹追ふ秋落日
虫に寝んとす友にはもはや寝起き無し
銀河の下ひとり栄えて何かある
桐一葉音たゆみなき鍛冶の音
冬水に沈む町影塔を欠く
赤きもの甘きもの恋ひ枯野行く
今朝九月草樹みづから目覚め居て
秋玲瓏人と真向きに山の顔
八ケ嶺のどの秋嶺を愛すべき
秋嶺は雲にまみれて野はその影
遠富士ならず近富士ならず昼の虫
アララギは武し其実は紅く小さし
秋富士やアララギ古木巨松抱き
耳張つて栗鼠走せ満目露の光
栗鼠失せて露の巨幹と老の杖
秋水や指の水輪の川手水
わが座より西秋山へ朝日かげ
花蕎麦や雲を千分けて日の霽るる
花蕎麦や日向の山はわが山のみ
古墓や南瓜の肌は粉ふきて
アララギは紅実老農白眉垂れ
秋の野路歩々に土から石の音
旅に居て曇れる午前初野菊