和歌と俳句

中村草田男

来し方行方

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橇の子の叫びと走りいくすぢも

橇の子等軍歌ためらふこともなく

仔馬やせぬ冬不二いかつき頃なれば

冬日遅々仔馬が牛の角なめて

母の無き子馬柱に松飾り

友歿後百日雪に琴ひびく

富士白衣弾琴しかも唱の声

父母ありて友ありて弾くか雪の琴

六段といふ曲をさなし雪をさなし

いま鳴る琴いま光る雪友は亡し

琴の音ゆけ亡友の辺空へ雪の地下へ

雪雫泣けば乏しのわがなみだや

信濃路に降る雪昏し空に織り

榛原は雪をのがれんかげもなし

松は鳴り雪は舞ひきて餉に乗りぬ

林間に雪の田や道も見つかりぬ

夫婦住む鉄路と凍湖見下ろして

もてなさる焼きし寒鮒さらに煮て

左義長へ行くこ行き交ふ藁の音

湖冷えや灯を仰ぎつつ乳のむ児