世はハタと血を見ずなりぬ花柘榴
麦埃たびの時間は生きてゐる
いくさ無しむらさきすべく青葡萄
いくさを経し真珠一粒夏の気澄む
昼顔の咲きのぼる木や野は広し
白雲をでる日仰ぎつ緑蔭に
乙女合唱絶えずきららに五月の日
いまや水着水を辞せざる乙女跳ぶ
実桜やピアノの音は大粒に
人も夏荒れたる都八雲立つ
合掌のぬくさつめたさ汗のまま
緑蔭に上むき寝る子空広し
永久に生きたし女の声と蝉の音と
蕾日に焦げんとしては芍薬咲く
栗の花脚の長さは尚ほ仔馬
斑猫や内わにあるく女の旅
新馬鈴薯や農夫掌よく乾き
民の間に絶えし金色夕焼に
夕日あかあか浴衣に身透き日本人
蜩の梢や三日月逍遥遊
小ヂーキル即小ハイド衣更へて
響き爽かいただきますといふ言葉
蚊起きあがる倒れし馬の起きる様
少年成ひ長ち五十の秋に満たずして
形影もろし野菊うたかた流れゆく