和歌と俳句

中村草田男

来し方行方

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15

外むきに岩にとまりて秋の蝶

日向飛ぶ旅装束の蜻蛉居て

初野菊仮想の女人みなあはれ

里近し野菊の下に土鼠の土

村の道家疎になれば青胡桃

青胡桃村家入口向きむきに

日と風の通ひて胡桃茂り実のり

野の光胡桃のしげり南厚く

向日葵は連山の丈空へ抽く

山の陽は木と水の友向日葵澄む

木の下に赤子寝せあり鷹舞へり

の家土間に伏目の馬母子

古語にいふ太腹平頸秋の馬

片腰さげて尾をふる仔馬朝の虫

母のそば仔馬は男秋炉燃ゆ

秋炉赤し仔馬母より細面

馬具とれし西日の母へ仔馬寄る

馬と寝に来し旅人へ秋の蠅

秋の蠅耳打ちをしに目のぞきに

夜長馬母子の刻印額に白し

馬と寝る屋の上に高嶺天の川

仔馬ハタと転び寝入りぬ虫の声

窓の銀河仔馬のいびき高らかに

稲妻や馬の乳房は胸に在らぬ

いくたびか母馬めざめただ夜長