鵙鳴くや十九で入りし造化の門
頬白のかすかな足蹴枝の雪
大小の荷が歩みゆく枯野父子
壮心復りぬ世に虫の音の残る間に
たたかひに育ちゆく子とヂャケツの母
林檎与ふ世に赤をこそ色と言はめ
よき妻とともに壮年棕櫚咲けり
青葉森怯え迹絶ち小犬の目
嬰児の名様つけて呼ぶ日の牡丹
百千鳥もつとも烏の声甘ゆ
春雷や三代にして芸は成る
花薺揺れ触る水輪水たまり
屋根の菫道の真中に車井戸
妻子住む春の里辺や楸生ふる
兎親子福寿草亦親子めく
絹機を織るやかがよふ白兎
日にちかき春の日陰や絹を織る
炉辺に笑む銀の歯古りし他人の母
川が海へ行くごと炉辺に国想ふ
手よ足よ蚊帳平安の一夜なる
年余の塵洗ひぬ月の花崗岩
黴を拭き日に当て一と日一と日くらす
己が荷の車ひく日や青山椒