和歌と俳句

中村草田男

来し方行方

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謡きこえかげろふ来る夜決意成る

鳴くは海へ落つる日独り負ひ

向日葵やガード都の門をなす

花に露十字架に珠数煌と掛かり

正午の露消え行進曲の鳴り響き

露消えし鏡に時世ありありと

露に歎く童男童女の声に帰り

梅雨も人も葬りの寺もただよすが

炎天の手の小竹凋る葉を巻きて

青稲の碧羅の空も茅舎以後

伏目の茅舎芭蕉葉面にあらはるる

芋の葉の干たる撫で撫づ天馬いづこ

紅白の供飯の睡蓮茅舎ねむれ

灼け灼けし日の果電車の灯もかがやか

街燈更けて夏草芝居の草のさま

ちちろ鳴きマネキン人形それの子伴れ

若者みな去ににはかにねむき星月夜

見つむれば訝かる吾子に秋の風

眼前は日照る寒気と希望のみ

心赤し炭火ゆ灰を削ぎ落し