すでに古し田植の頃の蹄あと
朝焼の中に地上の日出づる
一汁一菜垣根が奏づ虎落笛
溶鉱炉火気の高みに人と北風
教え児の炉辺なる脛の伸びたる脛
走せつづけうなづきつづけ霧の馬
鳴るや秋鋼鉄の書の蝶番
巵に澄む水音読つづくツアラツストラ
肩しかと母の燕や仔の声だけ
玻璃一と重夏の山湖に押し臨む
霧へ霧妻の手紙は文字のせて
刻々と雉子は歩むただ青の中
芭蕉忌や遥かな顔が吾を目守る
芭蕉忌や十まり七つの灯をつがん
空に水に祭りの月のとどまれる
病友に文欠きて何の月の詩ぞ
やはらかきかんばせの辺に梅の枝
餅焼く火さまざまの恩にそだちたり
雪ぐせや個の貧の詩はみすぼらし
勇気こそ地の塩なれや梅真白
吾子等喜戯南瓜の花は民の花
公の想ひ飛燕の空霽れて
炎天や金潤ひて銀乾く
蝉の陣真平らなる水面奔る