和歌と俳句

中村草田男

来し方行方

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すでに古し田植の頃の蹄あと

朝焼の中に地上の日出づる

一汁一菜垣根が奏づ虎落笛

溶鉱炉火気の高みに人と北風

教え児の炉辺なる脛の伸びたる脛

走せつづけうなづきつづけの馬

鳴るや秋鋼鉄の書の蝶番

巵に澄む水音読つづくツアラツストラ

肩しかと母の燕や仔の声だけ

玻璃一と重夏の山湖に押し臨む

霧へ霧妻の手紙は文字のせて

刻々と雉子は歩むただ青の中

芭蕉忌や遥かな顔が吾を目守る

芭蕉忌や十まり七つの灯をつがん

空に水に祭りの月のとどまれる

病友に文欠きて何の月の詩ぞ

やはらかきかんばせの辺に梅の枝

餅焼く火さまざまの恩にそだちたり

雪ぐせや個の貧の詩はみすぼらし

勇気こそ地の塩なれや梅真白

吾子等喜戯南瓜の花は民の花

公の想ひ飛燕の空霽れて

炎天や金潤ひて銀乾く

の陣真平らなる水面奔る