和歌と俳句

虎落笛 もがりぶえ

虎落笛眠に落ちる子供かな 虚子

夕づつの光りぬ呆きぬ虎落笛 青畝

梅嫌果ててゐるなり虎落笛 青畝

風の子の一と群過ぎぬ虎落笛 茅舎

虎落笛母大切に籠りけり 喜舟

この齢で何をおそるる虎落笛 

紫の氷かなしや虎落笛 茅舎

訪ひ来しは待つ人ならず虎落笛 花蓑

虎落笛叫びて海に出で去れり 誓子

霊山に星はすくなし虎落笛 楸邨

一汁一菜垣根が奏づ虎落笛 草田男

虎落笛食器を配り了える母 欣一

虎落笛ねむれぬ病我にあり 占魚

子が寝ねば妻が叱れず虎落笛 楸邨

胸廓の裡を想へば虎落笛 草城

燈火の揺れとどまらず虎落笛 たかし

虎落笛闇の帷に閃閃と たかし

虎落笛吉祥天女離れざる 多佳子

虎落笛みつまたの花みな動く 青畝

虎落笛箕面の早瀬澄みきつて 青畝

余生のみ永かりし人よ虎落笛 草田男

虎落笛絨毯に曳く折鶴蘭 みどり女

折鶴蘭鏡にうつり虎落笛 みどり女

虎落笛樹氷の林抜けるとき 誓子

もがり笛厚扉厚壁くぐり来る 多佳子

帰り来し故郷の山河虎落笛 立子

海を行く妙義生れの虎落笛 誓子

もがりぶえとぎれとぎれのものがたり 誓子

甘酒の箸は一本もがり笛 青畝

涙痕のひりひり乾く虎落笛 不死男

もがり笛左千夫に起り在りつづく 静塔

もがり笛信濃の教師耳かしこ 静塔

もがり笛息継ぐ茅野の尖石 静塔

もがり笛話とぎるる恐れけり 汀女

湯が沸いてしだいしだいに虎落笛 双魚

人の死は誰のあと追ふ虎落笛 不死男

虎落笛風樹の嘆のごときもの 双魚

耳打の憂きこともがり笛の席 静塔