和歌と俳句

加藤楸邨

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いつもその視線に胸の冬釦

梟や唾のみくだす童の目

わが無言子の目がさむくさしのぞく

ただ焦土冬日を落す屋根もなし

子が寝ねば妻が叱れず虎落笛

崖のがさりとうごき茂吉病む

冬の月焦土に街の名がのこり

毛糸編むたえてたのしさもなかりけむ

子を叱るなかれ瓦礫にばかり

霜柱子のいらだつは何に因る

米負ひて知世子ならずや冬の雁

極月の人を見てをり寒鴉

闇師等が焚きよごす冬の月一痕

寒月光柱をくだりつくしたり

年暮れぬわが名に石の抛たれ

わがための一日だになし寒雀

寒雀胸の地獄に囁き来

寒雀人前ばかり何を言ふ

や焦土の金庫吹き鳴らす

咳きつのる目を日輪のゆきもどり

墓碑もなき幾万にかく冬枯れ

悴まぬ日のために今日悴み

や焼けのこりしは墓の石

革命歌ちかづくの墓標群

冬鴎生に家なし死に墓なし