いつもその視線に胸の冬釦
梟や唾のみくだす童の目
わが無言子の目がさむくさしのぞく
ただ焦土冬日を落す屋根もなし
子が寝ねば妻が叱れず虎落笛
崖の霜がさりとうごき茂吉病む
冬の月焦土に街の名がのこり
毛糸編むたえてたのしさもなかりけむ
子を叱るなかれ瓦礫に霜ばかり
霜柱子のいらだつは何に因る
米負ひて知世子ならずや冬の雁
極月の人を見てをり寒鴉
闇師等が焚きよごす冬の月一痕
寒月光柱をくだりつくしたり
年暮れぬわが名に石の抛たれ
わがための一日だになし寒雀
寒雀胸の地獄に囁き来
寒雀人前ばかり何を言ふ
凩や焦土の金庫吹き鳴らす
咳きつのる目を日輪のゆきもどり
墓碑もなき幾万にかく冬枯れし
悴まぬ日のために今日悴みき
凩や焼けのこりしは墓の石
革命歌ちかづく冬の墓標群
冬鴎生に家なし死に墓なし