耳の下疣かなしめば年立ちぬ
爪のいろうつくしきかな冬月さす
燭とつて春寒き影曳かんとす
啓蟄のなほ鬱として音もなし
粥腹の木の芽に向くやまぶしけれ
つきつめて草餅の香となりにけり
蝌蚪の群焦土に子等置きにけり
田螺とり日本の飢深くなりぬ
大いなる雪解の中に生きて逢ひぬ
春の雲石の机は照りかげる
闇市に隣る野授業雁帰る
春の雁家ほしき顔ばかりなり
米尽きし厨に春の没日かな
雁かへる夜や生きてゐし顔二つ
春愁の釦の一つ色ちがふ
人去りし春燈何にまたたくや
茶の泡に春夕焼のとどまらず
飢ふかき一日藤は垂れにけり
鼠等も飢ゑてしたしき春の闇
幾万の飢つのる目ぞ燕
燕の子仰いで子等に痩せられぬ
煎豆をかぞへかみつつ更衣
苺くふねがひも過ぎぬ土乾く
新茶よりはじまるけふの空腹か
雲うごき空腹うごき桐の花