寒卵赤絵の鶏がかなしみぬ
寒雷や今は亡き目を負ひて生く
マスク白くいくさに夫をとられきぬ
焼かれ追はれきて霜柱うつくしき
死にたしと言ひたりし手が葱刻む
襤褸市に寄らねば藷に近づけず
焦土より水ほとばしり冬満月
冬の雁焼土ばかり起伏せり
杭のごとく冬日の面に人立てり
掌をみつつさびしくなりぬ冬の雁
なほけぶる火鉢抱ききてすすめらる
牡蠣フライひとの別れに隣りたる
鶏肉に百目に足らず古書さむし
襟巻を売りをはるまで見てをりぬ
鋭声ふと引きこめて息白くはく
闇師等の汽車は銚子へ雲雀たつ
猫柳妻が近づく匂ひあり
ゆく雁の窓はどこまで飢餓の街
瞬きを冷笑としてマスクの目
土筆見て巡査かんがへ引返す
春寒の卓や一語に二語かへす
沈丁は咲きあふれをり米は来ず
目の前に薬缶鳴りいづ春の雁
人前に秘めし笑顔を蝌蚪の前
牡丹散るほとりに暮れてパン粉練り