和歌と俳句

火鉢 ひばち

手のひらに艶よく出でし火鉢かな 石鼎

寂として座のあたたまる火鉢かな 蛇笏

仮の宿火鉢に頼り坐りけり かな女

大阪の宿の火鉢に二三日 青邨

双親の一つづつなる桐火鉢 草城

閑な身の火鉢も寒くなりにけり 月二郎

かざす手の珠美くしや塗火鉢 久女

筆とればわれも王なり塗火鉢 久女

ひとり居も淋しからざる火鉢かな 久女

我が凭りし銅の火鉢や菊を彫る たかし

茶が冷えて目に遠くなる大火鉢 楸邨

妹が居といふべかりける桐火鉢 虚子

手慣たる木目を撫でて桐火鉢 虚子

幾人をこの火鉢より送りけむ 楸邨

母ならぬ人のやさしき火鉢かな 占魚

雪空の下ゆ来てこの火鉢の火 万太郎

灯を消して星におどろく火鉢かな 楸邨

母の顔ときをりのぞく火鉢かな 占魚

火鉢に手かざすのみにて静かに居 虚子

手あぶりの僧に火鉢の俗対し 虚子

なほけぶる火鉢抱ききてすすめらる 楸邨

幹事席火鉢一つに五六人 虚子

一杯のヂンの酔ある火鉢かな 汀女

待たされてゐて気が楽や大火鉢 立子

下界を吹くごとし火鉢を鷲掴み 三鬼

火鉢の手皆かなしみて来し手なり 林火

小火鉢に古き港の話かな 汀女

火の起りゆくさま鉄の円火鉢 立子

大寺や百の火鉢のお粗末に 青畝

わが癖や右の火鉢に左の手 虚子

書巻の気惻々たりし火鉢かな 青畝

母が餅やきし火鉢を恋ひめやも 虚子

長火鉢不思議に似合ひゐる書斎 立子

火を入れしばかりの火鉢縁つめた 立子

火鉢欲しいつまで着るぞ里の紋 汀女