和歌と俳句

加藤楸邨

別れ霜踏んで征でたつ人ありき

春寒き闇に灯ともせ隠岐の島

船の火の赤灘わたる木の芽かな

春暁の大山に濤はみな向けり

父の忌の母と立ち見る野の枯木

新雪や崖の上下に声めざめ

転校の子に泣かれゐる雪の中

新雪の人の表札を見てはゆく

子が寝ねて妻の水のむ雪明り

妻は我を我は枯木を見つつ暮れぬ

子が来ねば妻を呼びなど春灯下

いからねば一日はながし寒雀

砂踏むや蹠崩るる寒三日月

みつむればものひかりいづ雪曇

茶が冷えて目に遠くなる大火鉢

四五本の枯木を過ぎて女なり

蜥蜴出て一日崖の滴れり

妻うたふ梅雨夕焼の厨より

根切虫月に雨ふりゐたりけり

うしろより忽然と日や梅雨あがる

くふや眼鏡こはれし雨の街

初燕父子に友の来てゐる日