和歌と俳句

加藤楸邨

午後五時の道玄坂や雁わたる

驚けば秋の鳥なる烏骨鶏

落鮎に星曼荼羅の深夜かな

の天まつくらなりし嗚咽かな

や牛の鼻先向きかはる

つぐや雀もつともいきいきと

十二月八日の霜の屋根幾万

わが死後も寒夜この青き天あらむ

崖にして冬夕焼の笹さわぐ

寒に入る屋根の一つがひかりいづ

寒卵割りて啜るや湖あをし

田の畦の凍豆腐に月させり

立ち掴む冬木の梢星降り来

貧交や寒鮒の目のいきいきと

冬鵙のしづかなる目を持てりけり

幾人をこの火鉢より送りけむ

生きてあれ冬の北斗の柄の下に

冬の鵙崖かんかんに凍てにける

ひとつづつ深雪の上の星の数

雪の木に身をすりつけて軍馬あり

噛みとりし林檎の歯型雪しきる

眉ほのぼの茂吉先生冬すこやか

炭火赤し一本の道と書いては消す

子のよぶや俄かににほふ夜の木の芽

啓蟄やたまたまひかる屋根の端