大巌の背が枯畑となりゐたり
枯畑に一念老いし目なりけり
馬の群同じ向きなる春没日
笹鳴や全山の馬影を曳く
赤き茨の芽のかぎりなき春愁ぞ
暮れはてし枯草鳴らし馬蹤きくる
枯しもの濤とぶかたへかたなびき
頬杖の顔のすぐ前春日没る
赤き茨の芽のかぎりなき春愁ぞ
眠りたき目に春星の幾屯
木木の芽のひかりは夜の怒濤かな
春いまだ蠑螺やはらかく梅かたし
笹鳴や玻璃に頬あて吾を見る子
鳥雲に隠岐の駄菓子のなつかしき
囀や春潮ふかく礁めざめ
春暁の南北の濤ひびきあふ
春燈にそそいで雪に似たる霧
船曳や東風の白浪泡だちゆく
バスを待つ隠岐の巡査につばくらめ
海士老いて仏頂面も陽炎へり
落椿一時間経て牛なくのみ
花杏潮真青なる岬かな
葱や菜や青し人住むあとどころ
径なくて篁くづる菫かな