和歌と俳句

加藤楸邨

大巌の背が枯畑となりゐたり

枯畑に一念老いし目なりけり

馬の群同じ向きなる春没日

笹鳴や全山の馬影を曳く

赤き茨の芽のかぎりなき春愁ぞ

暮れはてし枯草鳴らし馬蹤きくる

枯しもの濤とぶかたへかたなびき

頬杖の顔のすぐ前春日没る

赤き茨の芽のかぎりなき春愁ぞ

眠りたき目に春星の幾屯

木木の芽のひかりは夜の怒濤かな

春いまだ蠑螺やはらかく梅かたし

笹鳴や玻璃に頬あて吾を見る子

鳥雲に隠岐の駄菓子のなつかしき

や春潮ふかく礁めざめ

春暁の南北の濤ひびきあふ

春燈にそそいで雪に似たる霧

船曳や東風の白浪泡だちゆく

バスを待つ隠岐の巡査につばくらめ

海士老いて仏頂面も陽炎へり

落椿一時間経て牛なくのみ

花杏潮真青なる岬かな

葱や菜や青し人住むあとどころ

径なくて篁くづるかな