和歌と俳句

東風

東風吹くや山一ぱいの雲の影 漱石

東風や吹く待つとし聞かば今帰り来ん 漱石

繪暖簾に東風吹く茶屋や弁天座 虚子

東風吹いて一夜に氷なかりけり 碧梧桐

門に出れば東風吹送る山遠し 鬼城

立騒ぎ乗る舟人や東風の濱 虚子

東風の陽の吹かれゆがみて見ゆるかな 蛇笏

寄る船へしぶき打ち上げ東風の岩 石鼎

東風吹くや障子の外の芝に音 石鼎

いとどしく烟る線香や東風の中 万太郎

空山を煙上るや東風の空 麦南

鴟尾と人小ささ何れ東風の寺 青畝

東風吹くや耳あらはるるうなゐ髪 久女

夕東風に子心淋し戻り来る 風生

足袋裏に東風の埃や茶屋廊下 みどり女

ちらちらと家並つづきや東風の藪 青畝

東風吹くや尚砂山の枯芒 喜舟

東風吹くや枯るゝにあらぬ海女の髪 喜舟

東風波に下りためらへる家鴨かな 櫻坡子

白秋
どこやらから春が来さうな雪の後ですトロッコの土の東風です

東風吹くや鱗まみれの浜女 橙黄子

東風の岸下駄をつないで持つ子かな みどり女

夕東風や海の船ゐる隅田川 秋櫻子

魚市のあとの芥や東風の浜 悌二郎