阿部みどり女
引抜けば土塊躍る野蒜かな
夫病みて椿の庭やみだれたり
春山の或は椿の谷間かな
つぎつぎと張板かへす桃日和
桟橋や傘すれ合うて春の雨
友去りぬ春夜の床の白椿
裁板に居らぬ妻は子を抱いて梅の日に
手拭の春雪払うてあがりけり
雛しまへばぽつぽつ雨や桜餅
春海や波またぎまたぎ潮汲める
肩こりぬ花の床几に静まれば
ざらざらと櫛にありけり花ぼこり
手拭風に再び解けて新茶摘む
膝つけばしめり居る草土筆摘む
影消える松の曇りや土筆摘む
足袋裏に東風の埃や茶屋廊下
花戻り眠き頬押して芝居見る
酔ふ人を花の俥へ総がかり
田楽や雨に砂利舟通ひ居る
人下ろして廻す舳や花曇
干傘のひつくりかへる落花かな
春夜の子起しておけばいつまでも
岩つゝじ打折るひゞき掌にありぬ
あやまちて酒のしぶきや汐干舟
橋の上に顔覗かれぬ汐干舟
椎の葉のざわめき合ひぬ春の雪
夕づけば明るさ斑の春田かな
塵捨てに出てそれなりや梅の木戸
茶摘女の籠おどらせて追ひ寄りし
伏せ籠の雛にかゞみぬ花吹雪
苗床や風に解けたる頬かむり
潦花圃をめぐりぬ春の雨
雛しまふことおつくうに過しけり
梅活くるうしろに人のいつか坐す
雨にはしる人はやし居り花の窓
手伝ひの勝手わからず春の風邪
東風の岸下駄をつないで持つ子かな
父が墓百里へだつる椿かな