和歌と俳句

阿部みどり女

みちのくの二月恐るる卒壽あと

菜畑に日輪あまねく鳩あそぶ

立春や雪に届きし遺稿集

ものの芽に引かるる弱足自ら

初蝶の句を書き給へ淡路女忌

小波の小魚とも見えあたたかし

鶯の一度きりなる夢に入る

遠山もさだかに春よ佛舎利塔

臆病の一歩踏み出す二月かな

命より俳諧重しを待つ

君子蘭の鉢を抱へる力なし

杉の花粉黄粉のごとく卓上に

洋蘭と起き伏し七曜過ぎにけり

鴉去りいよいよ白きかな

啓蟄のカーテン引けば常の夜

啓蟄や皮膚敏感に嚏する

春雨に陶榻の紺深めたり

牡丹の芽裾吹く影の時にあり

淡路女忌過ぎても初蝶訪れず

雨風に木の芽一刻も休まざる

大鴉一樹に一羽彼岸墓地

鴨と家鴨争とけて春の川

手の影にあはてふためき春の蟻

土塊にかくれてしまひ春の蟲

我庭に初蝶とどめがたきかな

初蝶の日照り日曇り落ちつかず

夜露の蓬搗いて八十八夜かな

啓蟄の高々鳥の鳴き過ぎし

はじめての外出まぶしき二月かな

うららかや空より青き流れあり

川上も川下もわかず暖かし

春めくといふ言の葉をくりかへし

クロッカス松葉の如き葉に守られ