和歌と俳句

啓蟄

啓蟄や日暈が下の古畠 禅寺洞

啓蟄のつちくれ躍り掃かれけり 禅寺洞

啓蟄やはればれとして東山 草城

地蟲出て一日のきげんわろさかな 青畝

蜥蜴以下啓蟄の蟲くさぐさなり 虚子

啓蟄のいとし兒ひとりよちよちと 蛇笏

啓蟄やたゞ一疋の青蛙 石鼎

地虫出て金輪際をわすれけり 青畝

啓蟄の土洞然と開きけり 青畝

啓蟄の虫に従ふあゆみかな 烏頭子

啓蟄のわが門や誰が靴のあと 淡路女

香薬師啓蟄を知らで居給へり 秋櫻子

啓蟄の蟻と廚に午笛かな 汀女

啓蟄の運動場と焦土のみ 草田男

葛飾にわが啓蟄の旅了る 秋邨

啓蟄や日はふりそそぐ矢の如く 虚子

鵲は樹に園啓蟄の光りあり 蛇笏

啓蟄や煙草が抉る舌の苔 友二

啓蟄の蚯蚓の紅のすきとほる 青邨

啓蟄の土踏み何かつとめたし 蕪城

啓蟄やたまたまひかる屋根の端 楸邨

啓蟄の虫のおどろく縁の上 亞浪

啓蟄や返書の来ること遅し 誓子

啓蟄や如露でぬらす庭の石 

啓蟄や雲のあなたの春の雲 楸邨

啓蟄や雲を指すなる仏の手 楸邨

啓蟄や指反りかへる憤怒仏 楸邨

啓蟄やに嘴摺る大鴉 楸邨

啓蟄の風さむけれど石は照り 楸邨

啓蟄のゆふべや人はちりぢりに 楸邨

啓蟄のひとの行方もまた焦土 楸邨

啓蟄のなほ鬱として音もなし 楸邨

啓蟄の夜気を感ずる小提灯 蛇笏

啓蟄の大地月下となりしかな 林火

啓蟄に篠つく雨の降り注ぎ 虚子

啓蟄の土の汚れやすきを掃く 多佳子

啓蟄や若く盛んなる枝見ゆる 石鼎

奥嶽も啓蟄となる宙の澄み 蛇笏

啓蟄の甕には金魚明りゆれ 爽雨

啓蟄や幼弱かくる近視鏡 不死男

啓蟄や燈で逆撫づる黒仏 誓子

庵主に侍す啓蟄の蟇ひとつ 秋櫻子

啓蟄の虻はや花粉まみれかな 立子

啓蟄の土はみみずの腹中に 青畝

啓蟄や脱ぎし羽織を濡縁に 立子

啓蟄のもろもろの中に老われも 風生

啓蟄の蟇鳴き雨も音にいづ 爽雨

啓蟄のすぐ失へる行方かな 汀女

啓蟄のカーテン引けば常の夜 みどり女

啓蟄や皮膚敏感に嚏する みどり女

啓蟄の高々鳥の鳴き過ぎし みどり女

啓蟄やわれらは何をかく急ぐ 汀女

啓蟄のみみず日光浴を忌む 青畝