和歌と俳句

高浜虚子

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冴え返る寒さに炬燵又熱く

しつこくも春寒き日の続きけり

老友の病を訪ふや春時雨

堂塔につつかひ棒やの寺

志摩の蜑の和布刈の竿のながながと

岩の和布に今とどきたる竿ゆれて

雛納めしつつ外面は嵐かな

啓蟄に篠つく雨の降り注ぎ

春水に映る二階の人逆さ

春雨に濡るるがままの渡り廊

深々と春雨傘をさせる人

春雨のうたたね覚めて謡かな

白水晶緑水晶玉椿

繋がれし犬が嗅ぎより落椿

林檎散る晝かみなりの鳴るなべに

旅にあることも忘れて朝寝かな

河北潟見ゆる限りのかな

能登畑打つ運命にや生れけん

老一日落花も仇に踏むまじく

はまだ輪島の町は北を受け

風呂落す音も聞えて花の宿

能登言葉親しまれつつ花の旅

家持の妻恋舟か春の海

春潮や倭寇の子孫汝と我

潮じみて重ね著したり海女衣

繋がれし犬が退屈が飛び

山吹の花の蕾や数珠貰ふ

老僧と一期一会や春惜しし