高浜虚子
草餅や盆の上なる料紙筆
海女とても陸こそよけれ桃の花
春宵の我にかしづく小人形
町中に紫を引く春の宵
人の世の小唄習ふも春の宵
春の夜や互に通ふ文使
舟人の渦漕ぎ抜けて花仰ぎ
大玻璃の落花大きく現れし
諸人の花に会して宇治の宿
椅子の竹通して駕や山櫻
たばしたる先づ眼福や櫻鯛
鳥羽湾の島々高く大汐干
羽痛めたる蝶々の憂き眉毛
山の蝶仏の如く美しき
遠足の埃の中の鳥居かな
親雀人を恐れて見せにけり
見廻して顧みもして親雀
海棠の雨といふ間もなく傷み
赤き斑やつつじの瓣に蕊染みて
行春や垣外を行く赤き衣