和歌と俳句

春の夜

母人は浄るり本を夜半の春 風生

春の夜の港を持てる木立かな 汀女

春の夜の乳ぶさもあかねさしにけり 犀星

春の夜のねむさ押へて髪梳けり 久女

春の夜や粧ひをへし蝋短か 久女

春の夜のまどゐの中にゐて寂し 久女

春の夜のこの玉の緒を暁かけて 石鼎

登上曲ピアノに得たり夜半の春 石鼎

宝飾の窓に佇ちもす春の夜は 草城

かがり火の小倉百人夜半の春 青畝

春夜とは心の舵をたてつづけ 石鼎

炭斗に炭二かけや夜半の春 石鼎

灯のいろの湯けむり廊に洩る春夜 草堂

粉黛の香あり春夜の湯にひとり 草堂

湯の階を踏みぬらしたる春夜なり 草堂

春の夜の病廊長し白衣びと 石鼎

子らの声春夜の門を馳けきたる 悌二郎

焼林檎余りに美味で春の夜で 茅舎

時計屋の時計春の夜どれがほんと 万太郎

本あまた銭とかへたる春夜かな 占魚

看護婦にたばかられたる春夜かな 占魚

春の夜の闇さへ重く病みにけり 草城

春の夜や後添が来し燈を洩らし 誓子

娵の燈がおなじ村より春の夜 誓子

春の夜の子を踏むまじく疲れけり 波郷

春の夜の暗黒列車子がまたたく 三鬼

春の夜の浴室かぐはし妻のあと 草城

春の夜や互に通ふ文使 虚子

春の夜や新聞に落つ髪の雨 綾子

いづこよりか来たるいのちと春夜ねむる 綾子

ひねもすの風おさまりて春の夜 草城

わが下僕顔春の夜のエス祈る 静塔

春の夜や蟹の身ほぐす箸の先 真砂女

春の夜とケテルの葡萄パンとかな 万太郎

春の夜の何かと鏡花ごのみかな 万太郎

春の夜やむかし哀しき唄ばかり 万太郎