妻既にことしの椿見しといふ
桃が枝やひらき加はるけふの花
春の雪たわわに妻の誕生日
春雪や妻を産みたるひと在さず
手鏡に春雪とわがひげづらと
春雪や軍といふもの今は無き
まどろみゆ覚むれば春のゆふべなる
病顔を春の夕日に照らさるる
次の間に夕餉たのしげ春灯漏れ
春の夜の闇さへ重く病みにけり
春燈を消すに遅速の三世帯
枝の花夜を寝ぬわれに散りかかる
小夜ふけて散りぬる花か枕べに
痩梅の花ふたつ咲き二つのみ
あまきものさちに欲りつつ暮遅き
春の日のやうやう暮るるあはれさよ
光琳の百花の皿のわらび餅
若宮を詣でさがりてわらび餅
かたはらに鹿の来てゐるわらび餅
女の童しくしく泣けり夕ざくら
旦よりしづかに眠り春深し
春の宵妻のゆあみの音きこゆ
ゆく春やうつらうつらと昼餉のあと
ゆく春の雨ざんざんと夜半かな
紅つつじ花満ちて葉はかくれけり