和歌と俳句

日野草城

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二月寒し父似の眉の濃き娘

身辺に春塵の濃くなりにけり

生きてゐることのよろしき春の雪

茂吉逝き春団治逝きわれ咳す

万愚節妻の詐術のつたなしや

萬愚節いつはりならず咳き入りて

炭の香の立つしづけさや花ぐもり

老いて病む猫をいたはる花ぐもり

うららかや猫にものいふ妻のこゑ

猫の子も舌ちらちらとおのれ舐む

子猫ねむしつかみ上げられても眠る

初雲雀空もこころも曇る日の

梅が香やすずろに痛むおやしらず

うららかや雀ひばりに鳴きまじり

妻の留守ながしと思ふ夕ひばり

親しきはフォスターの曲花ぐもり

速達で伊勢のが届きけり

剪り立ての八重山吹の花の照

さくら見て来し妻さくら見せたがる

有馬路ののみどり手に貰ふ

うぐひすのこゑの沁みたるかな

晩霜や生ける屍が妻を叱る