和歌と俳句

春の雪

浅間なる煙が染むる春の雪 普羅

春の雪下りて噴煙北を指す 普羅

春雪や色濃き杣の雪眼鏡 普羅

春雪や神をいさめの赤き幡 普羅

ネクタイとマフラと対や春の雪 万太郎

淡雪のつもるつもりや砂の上 万太郎

薄明に降りゐしごとく春の雪 誓子

往診のゆくとき川に春の雪 誓子

春の雪消えずこよひも夜を更かす 誓子

往診の燈に春雪を降らしけり 誓子

春の雪たわわに妻の誕生日 草城

春雪や妻を産みたるひと在さず 草城

手鏡に春雪とわがひげづらと 草城

春雪や軍といふもの今は無き 草城

春の雪かたくなに残れりと見ゆ 綾子

春の雪中入すでにつもりけり 万太郎

春の雪妻はひもじさをふと言ひけり 草城

吾子われの顔わかりそめ春の雪 槐太

春雪に子の死あひつぐ朝の燭 蛇笏

春の雪卓燈昼をともるなり 万太郎

死と隔つこと遠からず春の雪 草城

どの家にも子供春雪とけゐつゝ 綾子

ばか、はしら、かき、はまぐりや春の雪 万太郎

あら浪に鴨翔けもして春の雪 蛇笏

生きてゐることのよろしき春の雪 草城

春の雪遠き地上の襤褸に降る 静塔

春雪の降りちかづくを地のあふつ 爽雨

泣蟲の杉村春子春の雪 万太郎

泣きはらしたる目に春の雪ふるや 万太郎

春の雪病み臥すものらさざめきて 波郷

春の雪今本降りや美しや 立子

青松の笠松にふる春の雪 波郷

唇にのぼれる朱や春の雪 波郷

仰向けにさし出す喉や春の雪 波郷

春の雪点滴注射ゆるやかに 波郷

生き得たりいくたびも降る春の雪 波郷

春雪の病院の籬低くなりぬ 波郷

春の雪蟲とぶ如く衰へぬ 波郷

春雪のむなしく鳴れり雪の中 波郷

いつしかに座も満ち積むか春の雪 汀女

春の雪このねんごろの姉妹かな 汀女