和歌と俳句

飯田蛇笏

家郷の霧

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冴ゆる灯に新年夜情雪のこゑ

山嶮し無縁佛に解くる雪

詩になづみ世と容れねども春の燭

夜は青し神話に春の爐火もゆる

老鶴の天を忘れて水温む

月盈ちて春俄かなる釈迦の嶮

奥嶽も啓蟄となる宙の澄み

かげろうて金輪際や雪解富士

彼岸雨詣でし墓を傘の内

やまかひに雲をたたみて弥生尽

蔵の香に狎れしなりはひ桃の花

百千鳥藪透く後山暾ざしそむ

墓を建て栖する地の落椿

あながちにはかなからざるおちつばき

あら浪に鴨翔けもして春の雪

四度瀑の天にすわる日桃の花

寒明けの日光溶くる温泉の澄み

春の月雲洗はれしほとりとも

裸木に春めきたちし渓こだま

人去つて雉子鳴くこだま瀧の前

春蘭のふかみどりなる雲の冷え