和歌と俳句

水温む

好忠
あなし川ふる山わけてくる春のしるしと今朝は水ぞぬるめる

水ぬるむ小川の岸やさざれ蟹 千代女

ながれ合ふて一つぬるみや淵も瀬も 千代女

ぬるみはやし町のかた野の水くるま 千代女

水ぬるむ頃や女のわたし守 蕪村

鷺烏雀の水もぬるみけり 一茶

芹目高乏しき水のぬるみけり 子規

おのづから水はぬるみぬ薪樵る 虚子

貝を生けし笊沈めしが水ぬるむ 碧梧桐

藤樹書院は宮境内か水温む 碧梧桐

これよりは恋や事業や水温む 虚子

水温む洗濯石の二つかな 泊雲

水温む利根の堤や吹くは北 虚子

温む水に黒く全き朽葉かな 橙黄子

水温む泥に茜や菖蒲の根 泊雲

泡影いくつ底に舞ひ居り水温む 泊雲

来る鳥ののめば浴ぶれば温む水 喜舟

底の穢のゆるぎそめけり水温む 泊雲

水温む奈良はあせぼの花盛 石鼎

黄昏の鹿映り居り水温む 石鼎

山鳥の枯色をかし水温む 喜舟

郊行や彳む水のぬるみたる 風生

古蘆の動くともなし水温む たかし

浮きつづく杭根の泡や水ぬるむ 久女

ぬるむ水に棹張りしなふ濁りかな 久女

土出でて歩む蟇見ぬ水ぬるむ 久女

さしのぞく古井の水もぬるみけり 風生

べんけいにささるゝ鮒や水温む 喜舟

水温む沼に繆うて径かな 草城

懐かしや二度逢ふ人に水温む かな女

ぬるむ水添水にいたり澄みにけり 槐太

水ぬるむ巻葉の紐の長かりし 久女

水底に映れる影もぬるむなり 久女

添ひ下る塢舸の運河はぬるみけり 久女

温む水山風の波こまごまと 草城

藁塚は減りてゆくらし水温む たかし

餌を終へし鴨すげなさや水温む 汀女

人影の映り去りたる水温む 虚子

石蕗の茎起きあがり水ぬるむ 犀星

水温む筧も松も砂を出で 汀女

風呂に汲む筧の水もぬるみそむ 久女

水温むとも動くものなかるべし 楸邨

十日ほど日記ためたり水温む 万太郎

羽をふくむ園生の小禽水ぬるむ 蛇笏

野に出づるひとりの昼や水温む 信子

深き浅き底に日当り水温む 石鼎

水温みつつあり妻の夜の祈り 草城

老鶴の天を忘れて水温む 蛇笏

犬の舌赤く伸びたり水温む 虚子

さうかとも思ふことあり水温む 立子

この池の愛蔵の水温みけり 不死男

水温む泊るこころとなりてをり 林火